1強11弱の時代…。
2020年の日本シリーズでホークスが前年に続いてジャイアンツに4連勝とストレート勝ちしたインパクトは強烈だった。ジャイアンツファンで、これまで日本シリーズに負けても叩かないと言っていた敗戦処理。だがさすがにこたえた。
セ・リーグを圧倒的な強さで制したジャイアンツがホークスに完膚なきまでにやられたことで、ジャイアンツばかりかセ・リーグとパ・リーグの力の差まで囁かれた。確かに、ホークスの四年連続日本シリーズ制覇だけでなく、2011年から2020年までの十年間でパ・リーグの球団が日本シリーズを制したのが九回と、“パ高セ低”は明らかだ。そしてそのうちの七回がホークス。ホークスはこの間、セ・リーグのすべての球団を日本シリーズで破っている。
“パ高セ低”も問題かもしれないが、交流戦で毎年の様に負け越しで終わり、日本シリーズでホークスに歯が立たないセ・リーグの問題ばかりでなく、ホークスに四年連続して日本シリーズ進出を許しているパの5球団にも問題はあるだろう。
そう、強いのはホークスのみ。1強11弱の時代に突入しているのだ。
(写真:ホークスの強さの拠り所。HAWKSベースボールパーク筑後 2016年4月撮影)
実質的に今年最初となるエントリーでこんな事を書くのは縁起でもないが、ホークスファン以外のファンは危機感を持つべきだろうと思い、敢えて書くことにした。
“パ高セ低”は確かにあるだろう。しかしホークスが四年連続日本シリーズ制覇したということは、ホークスに敗れたのはセ・リーグの日本シリーズ進出チームだけではなく、パ・リーグ各球団もホークスの後塵を拝していたことになる。ホークスは2018年と2019年にはパ・リーグで優勝出来ずに日本シリーズに進出しているが、ホークスにしてやられたという点ではジャイアンツやセ・リーグを制した各球団だけでなくパ・リーグ各球団も同様のはずだ。
日本シリーズ制覇という意味では4年連続。これはジャイアンツのV9以降では初の出来事。あの最強と言われたライオンズも3年連続で日本一になった(1990年~1992年)が翌年には日本シリーズで敗れたし、阪急ブレーブスも同様(1975年~1977年)。福岡ソフトバンクホークスの大目標は“世界一”になることだが、ホークスはジャイアンツの9年連続日本一を超えることも目標にしている。2016年にファイターズに敗れて日本一どころか日本シリーズに進出出来ない2位に終わった時にホークス10連覇ならずというエントリーを立てた(2016年12月28日付)。前年までまだ2連覇に過ぎないにもかかわらずジャイアンツのV9超えをスローガンに掲げた当時の後藤芳光球団社長や孫正義オーナーに釘を刺したかったのだが、その後、翌年からリーグ優勝を逃した年はあるが4年連続日本一。V9ジャイアンツの半分に迫っている。リーグ優勝自体は今現在“連覇”ではないとはいえ、ホークスの後塵を拝する点ではパ・リーグの各球団も同様だと思っている。
“セ・リーグも指名打者制を導入して…”とかの議論もある様だがパ・リーグで各球団がホークスを止めることを考えなければならない。昨年もマリーンズがホークスとの対戦成績で勝ち越し、唯一抵抗したが、ホークスは勝負所の10月以降25勝6敗1引き分けと圧倒的な強さを見せた。この間、苦手なはずのマリーンズにも7勝2敗と圧倒した。クライマックスシリーズでマリーンズを2連勝で一蹴したが、あれが本当のホークスの実力、底力だと感じたファンは少なくあるまい。ましてやマリーンズ以外のパ・リーグ四球団は推して知るべし…。
“1強11弱”という点ではセ・リーグ各球団も猛省しなければならないだろう。
拙blog昨年12月15日付ジャイアンツが来季からのDH制導入を提案で書いた様にジャイアンツが提案したセ・リーグのDH制導入は議論すらされずに却下されたそうだが、お膝元のスポーツ報知が昨年12月23日付けで山口壽一オーナーの真意を再度強調していた。
それによるとジャイアンツが提案するセ・リーグのDH制は原辰徳監督が提唱するDH制導入案とは一線を画すものであり、来季も新型コロナウイルス禍でのリーグ戦進行を余儀なくされる中で対策の一環としてのものであるという。昨年導入された“感染拡大防止特例2020”は今季も継続される方向だというがそれらにプラスするという発想の様で1月の理事会に再度問題提起するそうだ。それならわからないことはない。
だが、天下のジャイアンツの提案が議論すらされずに却下されたという事実は看過出来ない。ファンのレベルでジャイアンツファン以外が「また讀賣が横車を押そうとしている」と不快感を抱いたのとは次元が異なる。正式な席で、本来は対等な立場で出席しているはずの各球団にほとんど相手にされずに却下されたというのだから。一時のジャイアンツなら「応じないのなら脱退して新リーグ結成だ」との脅し文句の一つも報じられるところだが、今回はなかった。
ただ、何といっても山口オーナー名義で書かれた文章であるということの重みは考えるべきであろう。ジャイアンツとしては、いささか我田引水とも思える原辰徳監督によるDH制待望論とは別のものであると言うことを言いたいのだろう。原監督は“全権監督”と言われている。その原監督の発言と、同じテーマで別次元の提言をするのだ。原監督の意見を一度引っ込めてまでの問題提起となると球団オーナーの名前を使うしかなかったのだろう。
にもかかわらず検討すらされずに却下されたのだから時代は変わったのだと感じざるを得ない。ジャイアンツの横車という点では「江川問題」の時代までではない。今世紀に入ってからも例えばセ・リーグが2007年から導入したクライマックスシリーズに関してはジャイアンツの意向が影響していると言われている。
パ・リーグのみがプレーオフを導入していた2004年から2006年までの三年間、日本シリーズはいずれもパ・リーグのチームが制した。パ・リーグで日本シリーズ進出をかけた最後の死闘が繰り広げられている時にセ・リーグの優勝チームは消化試合か、早ければ公式戦が終了している。このブランクによって日本シリーズで敗れていると考えたセ・リーグがセもパのプレーオフに相当する短期決戦を導入し、パ・リーグにも変更を申し入れて新しいクライマックスシリーズが誕生したのだが、当時、ジャイアンツは球団史上初めて二年連続Bクラスという体たらくだった。そんなジャイアンツにとって3位でも日本一になれる可能性が残るプレーオフ制度は魅力的だった。パ・リーグのプレーオフは2004年、2005年とレギュラーシーズンで勝率1位だったホークスが日本シリーズに出られずに敗退したことで2006年にはレギュラーシーズン1位のチームに1勝のアドバンテージが付与されたのだが、当時二年連続Bクラスだったジャイアンツにとってアドバンテージは邪魔もの。清武英利球団代表は「アドバンテージをなくして、その分試合数を増やした方が興行的にプラス」との持論を展開し、アドバンテージなしに持ち込んだ。しかし2007年のクライマックスシリーズではセ・リーグで優勝したジャイアンツがアドバンテージ無しで挑まれたドラゴンズに三連敗してあっさり終了した。すると清武代表は翌2008年からアドバンテージを導入し、試合数云々の件との矛盾を避けるため、3勝すれば日本シリーズ進出となったファイナルステージの条件を4勝でとした。一球団に有利な恣意的なルール変更がほんの十年ちょっと前にも起こっていたのだ。
2011年3月に東日本大震災が発生して公式戦の開幕を見合わせるか否かの議論でセ・リーグが当初の日程通りに開幕を強行しようとしたのもジャイアンツの意向が強かったとされる。当時の滝鼻卓雄オーナーの「開幕を何日にしろってのは、お上が決めることかよ!?」という発言には戦慄を覚えた。あの時は野球ファン以外も含めた世論の猛反発を経てセ・リーグもパに合わせる形で開幕延期に踏み切ったが少なくともセの各球団はジャイアンツと足並みを揃えているようだった。それが今回は(一部ではジャイアンツに同調する球団もあったと報じられているが)味方になるはずの他球団から却下されたというのだ。ジャイアンツの威光は地に墜ちたのだろうか。
ジャイアンツが特別な球団でなくなり、ホークスが1強として君臨する。そういう時代になったのだ。1月に行われる理事会でジャイアンツの提案が再検討され、2021年限定でセ・リーグにもDH制が導入される可能性もある。ここでは鷲田康氏の文章を引用するが、検討に値する話題であることは間違いないだろう。個人的にはもう遅いと思っているが、2022年から採用するにしても議論は始めた方が良いと思うし。
◆ 巨人「DH制」提案をセ他球団が拒否したワケ 「北風と太陽のように絶対に脱がない」と“意地でも反対”も
(NumberWeb 2020年12月18日)
“北風と太陽”なら、原監督の最初の提案が北風で、山口オーナー案が太陽となって最後に服を脱ぐことになるとも思われるが…<笑>!?
良い機会だ。ジャイアンツも十二球団の中の一つ、十二分の一になってあらためて目を覚まして欲しいのだ。
余談になるが、旧態依然としたマスコミはかつてのジャイアンツや昨今のホークスを“球界の盟主”呼ばわりするが、“盟主”を文字通り連盟の主と解釈すれば、それはジャイアンツとかホークスとか特定の球団ではなく、日本野球機構の主、コミッショナーに他ならないはずだ。
コミッショナーがサッカーJリーグのチェアマンや日本相撲協会の理事長のような本当に先頭に立つ存在でないことが問題視され、だからこそ球団に“盟主”という称号が冠されるという実態は把握しているつもりだがこの風潮には異を唱えておきたい。コミッショナーがあるべき姿で機能していないことが最大の問題ではあるが、マスメディアが何の問題意識も持たずに特定球団を“盟主”呼ばわりするのをまずは止めて、問題提起のきっかけにして欲しいと個人的には思っている。
長くなってきたが、最後に、今季も様々な制約を受けそうな新型コロナウイルス対策。
昨年、公式戦開幕延期を余儀なくされ、試合数の縮小を強いられた時に、野球協約で定められている120試合以上という縛りを守った。野球協約で12月(と1月)には試合を行えないから日本シリーズを含めて11月中に終わらせた。そのために交流戦と、セはCS全てを中止、パはCSを短縮した。大リーグでは選手の年俸削減を巡ってストライキも危惧されたが、NPBでは野球協約に緊急時の賃金カットを認める条項がないから試合数(興行収入)が減っても少なくとも昨年の年俸には手を付けなかった。先が見えない中で野球協約に触れずにシーズンを終えた努力には敬意を表するものの二年目の今季はどうなるのか?という問題がある。
昨シーズンは物理的に試合数が1割強減った。拙blog昨年11月15日付エントリーNPB公式戦終了。入場者数は前年比18%にとどまる。で言及したように入場者数が前年比18%だったということは球団の収入もそれに比例して大幅に減っているはずで、にもかかわらず選手の年俸に手を付けなかったその影響は間違いなく今季の新年俸に響いてくるはずである。昨年末になって選手会が機構との事務折衝で、出来高払いを厚くして年俸を抑えるのは不当だなどと訴えているが現実に各球団の収入は減っているのだ。補填すべく親会社も本業で大なり小なり打撃を受けているのだ。“便乗値下げ査定”に釘を刺さなければというのもあるかもしれないが、個人的には“選手会も選手会としての仕事をしていますよ”というポーズの様な気がしてならない。
野球ファンが常に選手会の味方に付くとは限らない。実態を顧みない要望を強行すれば逆にファンにそっぽを向かれかねない。あくまで野球協約の範疇で事を進めようとしている機構サイドの動きを注視した上での選手会としての行動が求められよう。労働組合としての日本プロ野球選手会としては真価が問われる一年になるかもしれない。
今年は公式戦だけではない。東京五輪が無事に開催されれば侍ジャパンも気になるところだ。だが個人的にはあくまでメインディッシュは公式戦だ。
昨年は野球場に行くということ自体が特別なことであった。昨年の暮れの傾向では東京都を中心に各地で第二、第三の新型コロナウイルス禍が強まっていて昨年より恐ろしい感じもする。今季は入場者数制限ならまだマシな方で、下手をしたら昨年と同様に試合の開催そのものにメスが入れられそうである。昨年以上に嫌なシーズンになるかもしれない。勘弁して欲しいものだが…。
“新型コロナウイルス禍”というカテゴリーを設け、関連したエントリーをまとめたが今年も追加せざるを得ない感じだ。書きたいことを書くというスタンスに変わりない一年になると思うが、球界とコロナの戦いに関しても出来るだけ書いていきたい。書かないで済めばそれに越したことはないが…。
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